小泉進次郎氏にみるスピーチ術

先日、とあるイベントで自民党衆議院議員であり環境大臣でもある、小泉進次郎氏の講演を拝聴する機会がありました。噂に違わず、そのスピーチの淀みのなさに驚きましたが、政治家に限らず、普段人前で話をする機会の多い企業経営者の方や広報担当者にとっても、スピーチ力は重要です。私のセミナーでも質問の多い、「人の興味を惹きつけるスピーチ方法」について、小泉進次郎氏の講演を例に、今回は「良いスピーチ」そして「残念なスピーチ」についてもご紹介していきます。

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小泉進次郎氏はスピーカーのお手本

今回の講演は「人生100年時代の国づくり」という少々硬めなタイトルだったので、いくら小泉氏といえども、約1時間もの講演の間、聴講者の眠気を誘わずに惹きつけ続けられるのだろうか、と疑問半分、期待半分だったのですが、良い意味で裏切られました。もちろん、周囲を見回しても寝ている人は見受けられませんでした。普段からメディアに出られている方であり、また世間の興味や人気も高い人物というアドバンテージがあるとはいえ、最後まで聴衆に自身が本当に伝えたい事をしっかり伝え、且つ、聴衆の関心を維持し続ける能力は一朝一夕に備わるものではありません。進次郎氏の落語好きは有名ですが、落語でトークスキルを磨いているという話は本当なのかもしれません。

 

「今日はこれを話そうと思います」の意味

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進次郎氏は登壇すると、聴衆に万遍なく視線を走らせます。そして先ず始めに「今日は〇〇について話そうと思います。」と宣言するのです。 スピーチの上手な人の特徴に、話の冒頭で「今日は大事なことを3つお話します。」や、「今日はこれだけ覚えて帰ってください。」など、聴衆に話の”山場”と、最低限覚えておいてほしいトピックスについて明示するのです。人間は1時間も同じ人の話を興味深く聴き、一生懸命メモを走らせたとしても、時間が経って振り返ってみると、ぼんやりした記憶しか残っていなかったり、メモを見返してもよく分からない、思い出せない、ということが残念ながら多いのです。そこで、一番聴衆の意識がはっきりしている冒頭で、「今日はこういう話をしますよ。」「皆さんにとって重要な話を3つ伝えるので、これだけは覚えておいてください。」などと伝えることで、スピーカーが一番伝えたい内容を話す際は、聴衆の意識を集中させることができます。

 

聴衆の目線に合わせ、誰にでもわかる話をして、本筋に引き込む

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件の「セクシー発言」や「ステーキ発言」、さらには新婚であり、パートナーの滝川クリステル氏との話など、小泉氏には聴衆が聴きたいと思わせるエピソードトークに事欠きません。この講演でも進次郎氏は「今日伝えたい事」は別にありながらも、しっかりと聴衆の期待という空気を汲み取り、これらのエピソードをとっかかりに、時に自虐を交えながら、育休の話や日本がまだまだ保守的であること、そして「人生100年時代の国づくり」という本筋へしっかりと聴衆の意識を惹きつけていく手腕には舌を巻きます。

 

「間」は重要

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進次郎氏は聴衆が何に興味があるのか、今何を聴きたいのかを瞬時に理解できる能力に長けています。これは長年、街頭演説や、老若男女様々な市民との対話を重ねてきた賜物なのかもしれません。そしてこの講演時にも、そんな能力を垣間見ることができました。進次郎氏は講演中、オーディエンスに向けて問いかけたのですが、これはもちろん、大勢のオーディエンスから答えを求めている訳ではありません。1時間という講演時間では、ただ一方的にじっと話を聞くという聴衆の傾聴力が弱まる「波」が起きてしまいます。進次郎氏はその波をうまく捉え、「問いかけ」によって聞く側の意識を起こし、考えさせるという、ほんの少しの”間”を取った後に、自身の考えを滔々と話すのです。この絶妙な間によって、聴衆を一層自分の話に引き込むことに成功しています。

 

残念なスピーチ

進次郎氏のスピーチではありませんが、残念なスピーチというのも散見されます。その特徴は次の2つです。

 

①オーディエンスの顔(反応)を見ていない。

②スピーチ(特にQA)の練習をしていない。

 

常にオーディエンスの年齢層や反応を確認して、話の内容を臨機応変に変える進次郎氏と違い、オーディエンスの反応に気付かないスピーカーは意外に多く見受けられます。2つめの練習不足にも繋がることですが、与えられたその空間と時間で、不特定多数の聴衆に共感を持って伝わることがいかに重要で難しいことかを理解されていないのかもしれません。Amazonのジェフ・ベゾスでさえ、相当の練習を重ねています。たまたまトークスキルの高い人間に生まれてきたわけではないのです。

一に練習、二に練習…練習あるのみ!

一に練習、二に練習…練習あるのみ!

良いスピーチはテクニックももちろんありますが、練習に練習を重ねた日々の努力の上にできた「自信」が、オーディエンスを観察する余裕に繋がり、結果として伝わるスピーチとなるのです。

 

最後に進次郎氏の講演で残念だったことが一つ。

それは、進次郎氏が「フードロス」についても話をしていたにも関わらず、その後のレセプションでは、テーブルの上にオーディエンスの方々が食べ残した”フードロスの皿”が山積みになっておりました。。そういう意味では、進次郎氏のスピーチ力はまだまだ発展途上といえるかもしれません。

 

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