メディアアプローチ戦略(初級編)〜メディアリストの基本〜

 

「どうやってメディアにアプローチしたらいいですか?」

という質問をよく受けます。

多くの企業では、メディアアプローチをするタイミングはプレスリリースを発信するときでしょう。そのプレスリリースをPRTIMESなどの配信サービスを使って不特定多数に一斉配信している企業は多いのではないでしょうか。これも一つのメディアアプローチといえますが、個人的には、それはPRの”能動的な”活動としてカウントしていません。これはPR活動のルーチンワークの範囲です。

プレスリリースを届けたいメディアにしっかり届けるために、ルーチンワークから一歩抜け出し、もっと精度を上げていくためのメディアアプローチの基本は「メディアリスト」作りから始まります。

今回はメディアアプローチ戦略の初級編として、AStory流「メディアリスト」の作り方についてご紹介します。

 
 

1. メディアリストとは

メディアリストとは、プレスリリースの配信先である各種メディアのコンタクト情報をリスト化したものです。

そのメディアの媒体名だけでなく、バイネーム(名前)で管理して、直接その”人”にメールや電話でコンタクトがとれるようにしておけるリストのことです。

広報活動をしていると、自ずとメディアの方々と名刺交換する機会はあるでしょう。配信サービス会社に委ねずとも、自社独自の”直通”のメディアリストを作っていくことが可能になります。

これはどこにも売っているものではありません。”直通”のコンタクト情報は自社で、広報担当者ご自身で開拓していかないと手に入らない貴重なもので、会社の資源となるものです。

 

2. メディアリストに必要な9項目

それでは早速、メディアリストにどんな情報を入れるべきか、必要な項目を、順を追ってご紹介しましょう。

① メディアのカテゴリー

メディアには種類(新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、ウェブメディア)とジャンル(IT系、スポーツ系、美容系など)といった、どういう媒体かがわかるようにしておきましょう。

 メディア名

メディア名は通称で覚えがちですが、正式名称でないと相手にネガティブな印象を与えかねません。また、郵便でプレスリリースを送るケースにも送付ミスなく対応できるよう「正式名称」を入力しましょう。

 会社名

例えば、雑誌「VOGUE」の会社名が「合同会社コンデナスト・ジャパン」というように、メディア名とは異なる場合があるため、会社名も必ず入れておきましょう。

 部署名

「日経新聞にアプローチしたい」といったご要望をよく受けますが、日経新聞にも様々な部門(ビジネスユニット)があります。「社会部」や「経済部」、「大阪支局」など、届けたい情報の内容に合う部門の担当者にリーチするためにも、部署名を明記しておくことは重要です。

 担当者名

くれぐれも漢字の間違いがないよう留意しましょう。

 肩書

最近では署名記事などに「〜エディター」(日経新聞の場合、「雇用エディター」、「働き方改革エディター」、「DXエディター」)といった肩書を持つ記者が増えています。異動直後などで名刺に記載されていない場合もあるかもしれないので、名刺交換した記者の方の署名記事も合わせて確認しましょう。

 連絡先

所在地、電話番号、FAX番号、メールアドレスなど、分かる連絡先はすべて記載しましょう。
ちなみにFAXは最近では縮小傾向にありますが、媒体によってはまだFAXでの連絡を希望するケースもあるので記載がある場合は盛り込んでおきましょう。

 SNSアカウント

記者が個人アカウントでFacebookやX(旧ツイッター)などのSNSをやっている場合、メールではなくても、ダイレクトメッセージで直接コンタクトがとれる可能性があるため有効です。自社の業界に関連する記事を書いている記者が見つかったらSNS上にいるか確認しましょう。

 備考欄

「いつ、何の件でコンタクトしたか(もしくは取材を受けたか)」などの”ログ”を入れておきましょう。
1、2度会っただけでは、しばらくコンタクトをとらずにいると相手は忘れてしまう可能性があります。そのような事態にならないためにも、コンタクトした際(もしくは受けた際)の”経緯”をメディアリストに残しておくことで記者に思い出してもらえるきっかけになります。
また、チーム内で共有すれば、よりコミュニケーションが有効に働きますし、担当変更の際の引き継ぎも円滑になります。メディアリストは組織内で共有しておくことが重要です。

リストを作る際のポイントは、必要に応じて「ソート」や「フィルター」をかけてターゲットの選択をしやすくし、発信する情報を必要な人(メディア)に確実に届くようにすることです。

また、商社や流通業の広報など、色々な業界にまたがってメディアとお付き合いしていて、メディアリストを「多角化」している会社の場合、「何の業界で興味を持ってもらった人(メディア担当者)なのか、どの分野の話題に興味のある人なのかを項目に加えておきましょう。

担当業界が違う記者にプレスリリースを送ると迷惑になる可能性もあります。興味関心がない人(メディア担当者)に無関係のリリースを送るのはスパム行為と同じになりますので要注意です。

 

3. メディア人脈の作り方(記者の探し方)

メディアリストの作り方が分かったとしても、スタートアップ企業で広報も初めて、メディアとの関係はゼロから構築しなければならない、という方は「どうやってメディア(記者)を探せばいいのか分からない…」と思われることでしょう。そんな方々に、まずは次の3つの手順でトライしてみることをお勧めします。

3-1 メディア研究をする

まずは自社がアプローチしたい媒体に掲載されている業界に関する「署名記事」をチェックしましょう。PR活動のルーチンワークでもあるニュースのクリッピングを毎日行い、タイムリーな情報収集をしましょう。先述した「⑥肩書」のように、最近では記者の肩書の細分化が進んでいます。署名記事には「社会部」や「経済部」など以外に、「振興中小企業エディター」といった専門の肩書が載っていることがあるのでチェックしてみてください。

そうすることで自社に関連するエディターを探すことができます。探し当てた記者にコンタクトする際は、必ず、「◯◯の記事を読みました」と伝えましょう。続けて、「弊社のこういったところに興味を持っていただけるのではないかと思いご連絡しました」とアプローチしてみてください。

広報が初めてというケースだと、最初はターゲット(情報を伝えたい対象)とするメディア担当者の連絡先を知らなくて当然です。そんな状態でも、まずは署名記事がわかれば、その媒体には代表の窓口があるはずですし、電話でコンタクトをした際に取り次いでくれる可能性があります。その際は必ず”名指し”でコンタクトをとりましょう。プレスリリースを送りたい場合は「●●さんにお送りしたいのですが、どちらに送ったらよろしいですか。」と確認しましょう。

最近、「TVに出たいです」というお問い合わせをよくいただきますが、TVは間口が狭く、「一見さん(新聞や雑誌でも取り扱っていない会社や人物)はお断り」というケースがほとんどです。報道記者で社会的インパクトの大きな企業を追っている場合や明らかな社会現象は別にして、TVは新聞や雑誌が精査したものでないと基本は扱いません。そのため、いきなり名も知らぬ会社からのアプローチは大概スルーされてしまうのです。

それでもアプローチしたい場合は、希望する番組を隈なく視聴し、「どういう制作会社が入っているか」、「どんなディレクターが作っているか」などを把握した上で、その人にアプローチするのが早道でしょう。そのためにも紙媒体同様に、しっかりメディア研究をして、作り手の興味関心に適う「トレンド情報」であることを示ししながらコンタクトをとれるような状態を作っていきましょう。

これがまさに本来やるべき「能動的」なPR活動です。是非PR担当者は日常的にやってほしい活動です。

3-2 SNSでコンタクトを試みる

実は私、小西自身も、実際にそれまでコンタクトを取ったことのない記者の方を、Facebookで探し当て、ピッチをかけたことがあります。

SNSでコンタクトする利点は担当者に「直接リーチできる」ことです。

例えばX(旧ツイッター)であれば、リツイートや「いいね」などで相手のツイートに反応し続けて相手の目に留まることがあれば機会に繋がります。そのためにも、①でお伝えしたメディア研究に加え、SNSでの記者やメディア関係者の発信を分析し、「この人はこういうことには興味があるだろう」と考えてアプローチすることが大事になります。

ただ単に「知ってください」「話を聞いてください」と、自社の要望ばかりを押し付けたアプローチは避けましょう。

3-3 業界のコミュニティに参加してみる

例えばご自身がスタートアップの広報担当者であれば、スタートアップの広報担当者同士のコミュニティを作るのは非常に有効です。私自身もアマゾンジャパン在籍時は、EC業界の広報に携わる人たちのコミュニティに属し、またゲーム業界にいた頃はゲーム業界の広報の集まりなどに参加して情報交換をしていました。

このような業界のコミュニティがあれば、横の繋がりができて情報交換もでき、リスク対応などでも連携できるというメリットもありますので是非コミュニティの扉を開いてみてほしいです。

また、メディアの方が取材に来てくれた際は、かかさず名刺交換をするのはもちろん、その後もコンタクトをとり続けるようにしましょう。長くお付き合いをしていると、その方も出世されたり自身の活躍の範囲が広がり、それに応じて様々なご縁をいただけるようになります。

私は30年以上広報として活動しているからこその実感ですが、情報提供をし続けていると次第にネットワークができます。記者と1回繋がったら、そのご縁を切らさないよう大切に育んでください。

 

4. メディアリストで最も重要なこと

新聞やTVなどの報道記者は半年から2年程度で担当が変わります。願わくば、その際に連絡をいただける間柄だといいのですが、そうではない場合、異動の連絡もなく、気がついたら担当者が変わっていた…というケースは、日頃から情報提供をしていなければありえます。

そのようなケースを避けるためにも、あまり間が空かないように、業界動向など些細な情報提供でも丁寧に重ねながら、自社のメディア担当者が異動していないか、しっかり日頃から確認してメディアリストをアップデート(メンテナンス)していくことが重要です。良好な関係が構築できると異動時に次のご担当者をご紹介していただけるようになります。

自社においても人事で広報担当が変わることがあります。例えばその広報担当が退職した途端に、「誰(メディア)とどんなコミュニケーションをとっていたかわからない!」という属人的な状態だったとすれば会社のリスクです。それではPR組織が会社の資源になっていきません。新たな担当者が着任しても対応できるようなメディアリストを作ることが、メディアとの健全な関係構築のためにも役立ちます。

 

5. まとめ

いかがでしたでしょうか。メディアリストは情報を蓄積していくことで、自分たちの能動的なPR活動の変遷も可視化できるようになる重要なツールです。

メディアアプローチも新規で開拓していく際に特に重要なのは、自社が本来情報を届けたい人たち(=ステークホルダー)が見ているメディアに注目することです。

この初級編をクリアした方は、是非上級編「メディアアプローチ戦略(上級者編)」にもチャレンジしてみてください。

AStoryでは「広報基礎講座」などのセミナーやメディアプローチ、プレスリリース作成に関するサポートも行っておりますので、ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。

 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。