今こそメディアトレーニングの時代

 

最近、弊社ではメディアトレーニングのご依頼が増えています。本日も外資系企業でメディアトレーニングを行ってきましたが、ご依頼いただく企業の方々に接していると、社会とコミュニケーションしていくための体制づくりや、その考え方についてしっかり取り組まないといけないという意識の変化を感じます。
なぜ、今この時代にメディアトレーニングなのか。今日はこのテーマについてお話したいと思います。

 
 

今、なぜメディアトレーニングなのか?

 

1. VUCAの時代に突入

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VUCA(ブーカ)とは、「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」の4つの単語の頭文字をとった造語で、将来の予測が困難な状態を指す言葉です。

現代は先行き不透明な時代です。新型コロナウイルスしかり、昨今の気候変動による異常気象や災害の発生など、私たちは想定外なことが次々と起こる時代に生きています。まさにVUCAの時代ですね。

ではこのVUCAの時代に、消費者は企業やブランドに何を求めているでしょうか?

 

2. 消費者の意識が変化

これまでは競合他社より良いモノ、安いモノを作って競争する「競争時代」でした。

ですが昨今は、社会(お客様)と一緒に、社会(お客様)が何を考えていて、それに対して自分たちはどういう価値観や考え方でモノやサービスを作っているかが重要になりました。
総合コンサルティング会社のアクセンチュア株式会社が調査したデータに、次のような消費者意識の変化が分かる興味深い調査結果があります:

  • 31% ―― の人が企業ブランドの社会問題に関する言動が原因で、その企業との取引を止めた。

  • 60% ―― の人が社会、文化、環境、政治の問題について、企業に自分と同じような価値観をもっていてほしいと考えている。

  • 61% ―― の人が商品のボイコットやソーシャルメディアへの書き込みなどの個人的な抗議行動によって企業の言動を改めさせることができると確信している。

出典:アクセンチュア株式会社「TO AFFINITY AND BEYOND FROM ME TO WE, THE RISE OF THE PURPOSE-LED BRAND」2018年

 

3. 岸田新内閣も意識する「共創」時代

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また、ミレニアル世代やZ世代と呼ばれる層の消費者は、モノを買う時にそのモノを生産/供給している会社がどんな会社かを調べる傾向にあるといわれています。以前は「良いモノ(を作る会社)は良い」と、企業が創り出すモノやサービスの質が良ければ、それが企業の代名詞となった時代でしたが、今はそこからさらに、社会において良いこと・正しいことをしている会社なのか、もしくは共感できる会社なのかを見極められている時代なのです。

つまり、消費者と共に創る「共創」という構図になってきたのです。岸田新内閣も「新時代共創内閣」と命名されるなど、政治も国民と共に創ることを意識しはじめました。

ですから、企業として戦略的にコミュニケーションをしていかないと、多種多様な価値観が混在する社会の中で、無防備に社員が個人レベルで発信していれば、会社として消費者と一緒に創っていくという構図が崩れかねないため、そこには社内外のコミュニケーション能力の育成とコントロールが増々重要になってきます。

ちなみにAmazonはこの共に創るという共創を創業時から行ってきた企業です。Amazonでは常に「競合という観点はない」という考え方を持っており、常にお客様に集中して事業を推進しています。お客様しか見ていないといっても良いでしょう。
お客様のニーズを常に考え、先回りして応えていき、お客様が気付かないニーズにも気付く努力をする。そうした姿勢で「地球上でもっともお客様を大切にする企業」を目指し、革新的な商品やサービスを提供していくことに注力してきています。
筆者がAmazon時代に当たり前だった共創の意識が、今は社会全体に求められてきていると感じています。

 

メディアトレーニングの欠如がもたらす失敗例

これはビジネスではなく政治の世界の話になりますが、メディアトレーニングの重要性を語る上で分かりやすいトピックスのため、 例に上げたいと思います。

 

謝罪会見での失敗

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東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の元会長だった森氏の女性蔑視発言は、まだご記憶にある方も多いのではないでしょうか。
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長ともあろう方が、「いかなる差別をも受けることなく」と定められている五輪憲章に抵触する内容の発言をしたことは非常に残念でしたが、さらにダメ押しをしてしまったのが、謝罪会見で記者の質問に対して逆ギレともとれる発言をしたことです。

結果的にこの会見でさらに炎上してしまい、海外からの批判も免れず、森氏は会長職を辞任しました。
森氏は記者会見の途中でその目的を失い、何のための会見だったのかを忘れ、社会との対立構造を作ってしまったのです。
記者たちからの耳の痛い質問に耐えられなかったのでしょうが、記者は「社会がこういうことを聞きたいだろう」ということを想定して質問しています。
記者の"向こう側”にいる国民に話をしているという意識があれば、こんなことにはならなかったのではと思います。

また、謝罪会見では謝罪だけでは足りません
謝罪をした上で、今後の対応、つまり、再発しないように改善する方法についても、「いつ・どのように」といった具体策をセットで話すことが極めて重要です。
謝ることは誰にでもできるけれど、今後どうするの?どうなるの?大丈夫なの?という不安や懸念を国民は解消したいのです。
このような場合、「どうせまたほとぼりが冷めたら同じことの繰り返しでしょう」という懸念に対する想定質問への答えを用意し、記者の追求にも感情を揺さぶられないための準備や練習をしておくべきだったでしょう。

このような胆力の要る会見は、メディアトレーニングをしておかないと乗り切れない、難易度の高い体験です。
ましてや、五輪憲章の下で構成された組織委員会のパーパス(存在意義)を考えれば、伝え方やその本質を間違えると、国民だけでなく、全世界の人に矛盾を感じさせ共感は得られないでしょう。
組織のトップこそ率先してメディアトレーニングを受ける必要性を強く感じさせる事例です。

メディアトレーニングではキーメッセージを作るときにはその企業やブランドのパーパスから逆算して作ります。
パーパスは社会の共感を得て、共創社会で矛盾のないメッセージを発信していく上で必須の概念です。

パーパスについての記事はこちら

 

原稿という存在が引き起こす失敗

先日退任された菅元首相も、そのコミュニケーションの不器用さが話題となった方です。
菅氏はメディアトレーニングを何度も受け、練習して内部で忌憚なきフィードバックを得る機会があれば、もっと改善できたのではないかと思います。なぜか会見を見るたびに菅氏が操り人形に見えるのです。

なぜそう見えたのか?理由は3つあります。

 

理由その1「原稿を棒読み」

これはメディアトレーニングの準備と練習の欠如が如実に現れた例でしょう。
そもそも時間のない立場の方ですが、それでもメディアトレーニングは必要です。短い時間のなかで、自分事として要点を落とし込み、原稿をそのまま読むのではなく、自分の言葉でアウトプットしていくトレーニングが必要なのです(オバマ元大統領といったアメリカの要人では常識のスタイルです)。

メディアトレーニングの肝は「準備と練習」です。弊社ではどういう準備をすべきか、どういう練習をすべきかをレクチャーします。

 

理由その2「伝わらない感情表現」

いつも目がふさぎがちだと、感情が伝わりにくいです。恐らく周囲からの指摘からか、途中からプロンプターを導入し、視線を上に上げる工夫をされていましたが、それでもやはり原稿の「棒読み」が改善されていなかったため、国民には伝わりづらかったのです。
ジェスチャーもフルに活用することも有効なのですが、局所的な処置では問題の本質の改善には至りません。

 

理由その3「断定しない話し方」

菅氏の特徴として、語尾が「〜だと思っています。」「〜だとみられている。」というような弱い表現が目立ちました。
これも指摘が入ったのか、途中から「〜です!」と強い断定表現がみられるようになりましたが、やはり原稿の棒読み感が足を引っ張り、全体的には弱い発言に終止してしまった気がします。

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聞くところによると、「話し方トレーニング」を導入されたともいわれていますが、だとすればそれはメディアトレーニングとは似て非なるもので、もしかすると、原稿の読み方に注力されたものだったのかもしれません。
しかしながら、スタッフが作った原稿を一字一句間違いなく全部読むのは、時として共感を得にくいものです。

キーポイントを押さえながら、強調すべき点を、メディアやオーディエンスに伝わるように話すコツを習得していれば、国民の支持はもっと増えた可能性は大いにあります。いずれにせよ、枝葉末節ではないコミュニケーションを地道に練習して体得するしか解決策はないのです。
この練習は自己流で上手くいくこともあるかもしれませんが、最短で自分のものにするにはその道のプロに入ってもらうことが得策でしょう。

メディアトレーニングでは、記録されているメディア対応時の言動や所作を診断し、どこをどう修正すべきかに取り組みます。
自分自身を振り返って客観的に捉えること、その上でベストな表現ができるように繰り返し練習を積み重ね、次に活かすことが重要です。

 

メディアトレーニングの意義

ちなみにAmazonの創業者であるジェフ・ベゾスは取材を受ける前に必ずメディアトレーニングを受けていた人物です。
日本に来日する際も、会社のトップなのだから自社のことはすべて頭の中に入っていますし、ビジネスの話をすることはとても得意な方でしたが、ジェフは「日本のお客様のニーズをちゃんと理解して対話したい」という気持ちの強い方でした。

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そのため、今の日本の市場がどうなっているか、我々が解決すべき日本のお客様の課題は何なのかなど、日本のことを事前にしっかり学習し、日本特有のカルチャーを理解した上で毎回取材に臨むのです。

また、記者からの難しい質問や答えにくいであろう想定質問についても、その回答内容や伝え方について我々日本チームと十分にディスカッションします。

このように企業のトップでも、否、トップだからこそ、社会とのコミュニケーションにプライオリティを置いて、十分な準備と練習をしています。

ジェフが特別な能力を持っているというわけではなく、こうした前提があった上で取材に臨むと、母国語の違いがあっても日本の社会に伝わる話ができるようになるのです。

そして、分かりやすく記者に話すことで明文化されやすくなり、結果的にメディアを通して発信されやすくなります。
メディアトレーニングを行うことでこのような好循環が生まれるのです。

Amazonの成功の一つには、革新的なサービスや商品だけでなく、メディアトレーニングをしっかりして、戦略的コミュニケーションで社会との共創を目指してきたことにあります。

だからこそ、多くの企業がメディアトレーニングに取り組む意義は大きいのです。

 

AStoryではメディアを通して最終的にリーチしたい顧客の共感を得るための戦略的メディアトレーニングを実施しています。ご興味のある方はお気軽にコチラへお問い合わせください。