スタートアップにおける広報戦略のツボ
仕事柄スタートアップの広報をサポートする機会も多いのですが、スタートアップで成長している企業は志の高さを感じることが非常に多く、また社会課題解決に繋がるストーリーをしっかりもっています。それらをしっかり発信すれば、より社会からの共感力が高まる可能性が高い企業ばかりです。
一方で、事業活動の数値的な結果を早く出したいというスタートアップ企業も当然ながら多いと思いますが、やはり社会の共感を得て、自社の事業や企業の在り方に賛同してくれる人たちを増やしていくものほど強いものはないと実感しています。故に、スタートアップやベンチャー企業こそ広報機能をいち早く立ち上げるべきなのです。
ただ、起業したばかりでリソースが限られていることの多いスタートアップでは「社長の人脈に頼ったメディアアプローチ」や経験が未熟なスタッフによる「自己流PR」になっているケースがしばしば見られます。
今回はスタートアップが陥りがちなPR(広報)の勘違いとPR(広報)戦略のツボについてお話しします。
まずPRとマーケティングの違いを知っておこう
PR(広報)とマーケティング(広告も含む)は、仕事内容はもちろん、その目的や役割が異なります。
PR(広報)とは
PRは企業やブランドのイメージや信頼を構築・維持するために、メディアやステークホルダーとの関係構築を重視する活動です。PRは広報戦略の策定、プレスリリースの作成・発信、記者とのコミュニケーション、イベントの企画、自社サイト運営などを通じて、企業やブランドのメッセージを効果的に伝える役割を果たします。
マーケティングとは
一方マーケティングは、基本的に商品やサービスの販売促進を目的とした活動であり、顧客のニーズや要求に合わせて開発・宣伝することに重点をおいています。マーケティングは市場調査、広告や販促キャンペーンの計画・実施などを通じて商品やサービスの需要を喚起し、売り上げを増やすことを目指します。
マーケティングは基本的にはKPIを達成するという目標があります。売り上げや新規ユーザーの獲得などの数値的な目標のためにコストをかけてある一定期間において露出を増やして販売促進をするのが目的であり、PRはあくまでも長期的視点でゆるがない信頼構築を目的にしています。PRは長くやればやるほど信頼関係作りにつながっていく手段なのです。
スタートアップ広報の共通点と避けるべきこと
スタートアップ広報の共通点
スタートアップ企業に多く見受けられる広報担当社のパターンに、「ちょっと広報やってました」もしくは、「全くやったことがありません」など、リソースがないため他部署の広報経験がないスタッフが兼任するケースが多いです。つまり広報のプロがいるスタートアップ企業はあまりありません。そのような企業の方々はPRの役割やその価値や影響力を正しく理解されていない可能性もあります。スタートアップという社会を変革するために立ち上がった事業の意義を考えれば、PRの波及効果を認識して是非活用していただきたいものです。
また、スタートアップ企業のPRにおける悩みで多いのは、「なかなか取材・記事化してもらえない」ことではないでしょうか。様々な企業のご支援をしていて共通して言えるのは「自己流」が一因になっているということです。
PRというものを、いわゆるマーケティング(広告)コストをかけなくても記事が穫れる・掲載されるといったことを期待しているかもしれませんが、そこ(記事化)に至る”プロセス作り”が非常に重要であり、期待される効果を得るには知見・知識が必要になってきます。
自己流でやってしまいがちなこと
メディアの記者が嫌がるケースに、以下のようなプレスリリースの例があります:
うちの会社は◯◯をやっています。
うちの会社は◯◯を始めます。
うちの会社は◯◯が凄いんです。
つまり、自社が書いて欲しい内容ばかりで、記者にとっては有益ではない情報に終始しているパターンです。
記者にとってスタートアップのような、まだ世の中に知られていない会社からのプレスリリースは、ただ単に自社アピールをされても、それが社会にどの程度影響を与えるのか、または読者にどう関係があるのか想像がつかないのです。
しかしながらプレスリリース配信サイトで各社のプレスリリースを見ると、多くのスタートアップがこのような不利益で残念なプレスリリースになっています。
自己流の失敗パターン
記者が求めていない情報にもかかわらず、何度も、とにかく頻度を上げてコミュニケーションすれば何とかなると自己流を突き進めていくと、もはや記者にとって、そのプレスリリースはポストに投函されるポスティングチラシやDMのような不要なモノとして企業イメージさえネガティブになってしまいかねません。
そして仮に取材の機会を獲得できたとしても、我流で臨むと自分たちが全く想定していないような記事の内容になってしまうこともあり得ます。
つまり「広報の基礎」がないと企業の信頼構築につながりにくいのです。
自己流を脱してからすべきスタートアップ広報の初歩
広報の基礎とは例えば、
PRの役割と効果をきちっと理解しておくこと
PRが活動で気をつけるべきこと
社会とのコミュニケーション方法
などがあります。
そのうえで、まずスタートアップの広報が目指すべきは「日本経済新聞(略して日経新聞)」の記者に認知・理解されることでしょう。
もちろん、各スタートアップ企業のステークホルダーの特性やBtoCだとユーザー属性などによってターゲットとするメディアは異なってきますが、世間にまだ認知されていないスタートアップ企業なら、まずは日経新聞の記者に興味を持ってもらえるようアプローチしていくのが得策です。
その際に、「こんなことやってます。あんなことやってます」というやり方では一方通行のコミュニケーションになってしまいますので、彼ら記者が一体どういう目線で取材対象の企業を探しているかということを研究して攻略していくことが重要です。
スタートアップならまず押さえるべきメディア
日本経済新聞
新聞というと、スタートアップ、特にSNSを駆使したメディア露出をイメージされている企業や普段から新聞を購読していない方々にとっては「今更新聞なんて時代錯誤だ」なんて思うかもしれません。
確かに現代はSNSで自由にステークホルダーに発信できる時代です。しかしながら、新聞に影響力はないと思われていたとすれば、それは勿体ないことです。あまり知られていませんが、新聞はあらゆるメディア、テレビや雑誌、ラジオはもちろん、オンラインメディアに携わるマスコミの方々がチェックしている媒体です。
そして日経新聞のような企業取材にリソースを割いている媒体に掲載されているということは、取材対象の会社やその記事内容がしっかりスクリーニング(精査)されており、この会社はパーパスやビジョンを掲げているとおり社会課題に取り組み、信用できるから読者に紹介してますよ、というお墨付きになります。そのため、日経新聞が取捨選択した上で記事に採り上げた会社となれば、ほかの媒体も追随し、露出が拡大していく可能性が大いにあるのです。
また、BtoB企業であれば、企業がお客様なのでビジネス感度の高いビジネス中核層が読んでいる日経新聞に掲載されることは波及効果が高いといえます。
さらに、日経新聞には毎週水曜日の紙面に「スタートアップ面」という枠があります。この枠ではスタートアップ企業の素晴らしい取り組みが紹介されています。スタートアップ企業であれば取材・記事化される可能性が非常に高いので、スタートアップ広報であればしっかりマークしておくべきでしょう。
日経ビジネス電子版「1分でわかる「起業家たち」のリンカク」
日経ビジネスのオンライン版で掲載されている動画で、1分という限られた時間かつ編集なしで起業家たちの素顔に迫るコーナーです。これもスタートアップ企業であれば目指したい媒体です。
https://business.nikkei.com/feature/2021/rinkaku/
弊社がサポートしたスタートアップも複数採用されており、採用後は取引先候補もご覧になっていたという話を聞いています。
東洋経済「すごいベンチャー100」
週刊東洋経済が毎年特集している、事業内容や技術の独自性などを基準に、将来のユニコーンとなりえるスタートアップ企業を選定して紹介しています。
「すごいベンチャー100」2022年最新版・全リスト 全社総力取材、これが未来のユニコーンだ!
https://toyokeizai.net/articles/-/614688
毎年8月か9月に特集しているようなのでPRしたい企業は一刻も早くコミュニケーションを開始すべきでしょう。
もちろんスタートアップだからアプローチすれば取材されるほど簡単な話ではありません。
ここで重要なのは、影響力のあるメディアや載りやすい枠をただ知るということではなく、「情報の流れ」を理解して、自社が掲載される可能性がある媒体や、追い風となる紙面はきちんと普段からリサーチしておくべきということなのです。
スタートアップ広報戦略のツボ
プレスリリースは一斉配信だけでなく、取材していただくには個別アプローチが重要です。
なぜなら、PR活動は個別にメディアの先の「読者」を想定してコミュニケーションしていく活動なので、自社が目指していく方向性のなかで、しっかりとステークホルダーを理解して戦略を立て、実践していくことが鍵となるのです。
もし貴社の広報担当者が日々がんばっているのに成果が出ていないと感じていらっしゃるのであれば、それは「基礎固め」ができておらず、自己流PRをしてしまっている可能性が高いです。
そして潤沢な資金や人材が少ないなかでは、1人広報や他部署のスタッフが広報を兼任するケースが多く、都度相談できる相手、的確なアドバイスができる先輩や上司がいない環境下であることがほとんどです。
そのような環境の場合は基礎を一緒に作ってくれる「伴走型支援」を一時的でも入れると突破口が開けるでしょう。
もちろん、メディアトレーニングをはじめとした広報に必要なノウハウはAStoryでも提供し、伴走支援を行っていますのでご興味のある企業様はお気軽にお問い合わせください。
AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。
ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。