BtoB企業の未来を拓くステークホルダー別パーパスコミュニケーション術

 

BtoB企業の経営者や広報担当の方のなかには、「BtoB広報にはやるべき施策が少ない」と思われている方も多いようです。しかしながら、実際にはパーパス経営を基軸としたステークホルダー別のコミュニケーションにはBtoB企業の成長につながる可能性があり、且つその施策は沢山あります。
本記事では、先日私が『広報会議』に寄稿した記事*(1)に関連し、そこでご紹介した「ステークホルダー別の発信内容」のリストからいくつか抜粋し、BtoB企業のためのパーパスを基軸とした効果的なコミュニケーションの切り口や事例についてご紹介します。

 

*1:『広報会議』2024年12月号(BtoB企業に学ぶ広報チャンス)「BtoB企業の成長を後押しする いま意識したい広報活動とポイント」

 
 

1. 「社員と家族」向けの戦略的コミュニケーション

● 経営者インタビューの切り口を見直す

社内報などに掲載される経営者インタビューは、単なる節目の中期経営改革の発表や業績報告の場だけではありません。パーパス経営を軸としたビジョンや ミッションを繰り返し、様々なシーンで伝え、社員が自社の存在意義や自身の役割を再認識できる機会とすべきです。

例えば:

  • 会社のパーパスと現在の進捗状況の関連付け

  • 各部署の活動と全体的な目標との結びつきの確認

  • 社員への具体的な期待の表明

このような経営者が方向性を示し、各部署、社員一人ひとりの役割に期待するアプローチにより、社員は会社の仕事を自分事として認識しやすくなり、モチベーションの向上にもつながります。

また、経営者はもっと頻繁に社員とのコミュニケーションがあるべきです。社長が「今こそ!」と思うタイミングであれば、四半期といった節目を待たずに、社長自身の考えを社内インタビューで発信できると、従業員の方々にとって「一体、私は何の課題解決に貢献しているのか」、「何を期待されているのか」ということを再認識・再検討できる機会になります。

● 賛同を得られやすい事業計画の説明

単に「一年後に売上25%アップを目指します」といった数値目標だけでなく、その背景にある戦略や、取引先の課題解決に向けた具体的な施策を説明することが重要です。

例えば:

  • 目標達成のための前提条件の説明(数値目標が一体何を前提にしたものであるか)

  • 顧客の課題解決に必要な施策やそのために発生するコストの詳細

  • 自社製品が売れるための環境整備やパートナー企業との協力体制の重要性

このような包括的な説明により、従業員は事業計画を自分事としてとらえやすくなります。

● 効果的な部・課の成功事例紹介

ファクトベースの成功事例紹介だけでは、あまり他の部署の役に立たないでしょう。やはり、全社をあげたパーパスドリブンの事業展開を行うという大前提からいえば、他の部や課の社員が参考になるような成功事例の紹介方法が必要になります。そのためには、他部門にも応用可能な、いわゆるインサイトを社内で共有することが重要です。

例えば:

  • 目標設定から達成までのプロセスの詳細な説明

  • 直面した課題とその解決方法の共有

  • ステークホルダーとの関わり方や成果の測定方法

このような情報共有により、同じパーパスやビジョンを共有する者として、部門を超えた学びと協力、自部門での応用やチャレンジが促進されやすくなります。

ちなみに、メディアは情報として世の中の多くの読者に参考になる企業の事例を紹介しています。企業の事例を世間に紹介することで、より多くの人々の参考になる、または社会のお手本になる、ときには反面教師として失敗をしないための警鐘にもなります。なぜならそれが経済の発展につながり、社会の利益になるからです。それは企業の社内報でも同様です。パーパスの実現という共通の目標に向けた、誰もが参考になるようなコンテンツを心がけて発信していきましょう。

 

2. 「外注・下請企業(協力会社)の社員」とのパートナーシップ強化

● コンプライアンスと相互理解の重要性

コンプライアンスは最近のホットトピックスですが、昨今は企業にとって生命線ともなる大事な要素です。
外注先や下請企業は、単なる業務委託先ではなく、重要なビジネスパートナーとして捉えるべきです。下請法などで企業も好き勝手な条件を外注先に提示して、安く請け負わせるといったことに、世間から非常に厳しい目が向けられる時代になっています。国家的な人材不足の中で外注先・下請企業はとても大切なパートナーです。その大事なパートナーに力を最大限発揮してもらうことこそが重要で、そのためにはパートナー企業も「自社の社員」ととらえる意識改革も必要でしょう。

外注・下請企業向け発信切り口の例:

  • 自社のステークホルダー(お客様)への課題解決の取り組み

  • 自社が課題解決できる理由

  • 自社の強み(商品や組織、人、社の志など)

  • 顧客の課題や満足度に関する情報の共有

パートナー企業も自分たちの会社と同じ思いを持って、取引先に接してもらうには、自分たちの会社を好きになってもらう必要があります。「この会社と仕事をすることが有益」と思っていただけるようなコミュニケーションをしていくのが大事になります。

 

3. 「顧客」との信頼関係構築

● 課題解決型コミュニケーションの実践

自社のウェブサイト上では、製品スペックの羅列だけではなく、取引先の課題解決に焦点を当てたコミュニケーションが重要です。

例えば:

  • 取引先の顕在および潜在的な課題に対する理解の提示

  • 自社ソリューションによる具体的な課題解決事例の紹介

  • 社会的意義を踏まえた製品・サービスの位置づけ

これらのアプローチにより、単なる取引先ではなく、信頼できるパートナーとしての地位を確立できます。常に社会的意義や、取引先の未来の課題も想定し、そこから逆算したコミュニケーションを続けることで信頼獲得につなげていきましょう。

 

4. 「地域社会」との共生

● 地方創生への貢献

石破内閣も先日の施政方針演説のなかで、政策の重点ポイントとして「地方創生2.0」を掲げていましたが、地域社会との関係構築は、今後ますます重要になるはずです。地方に工場やカスタマーサービス、物流センターなどの営業拠点がある、地方展開しているBtoB企業は、地域のコミュニティに対して、自社がどのようにその地域の課題を認識し、貢献しようとしているのかを表明することは意義があるでしょう。

ここでは私が在籍していたアマゾンジャパンが、全国各地に物流センターを立ち上げる際に、その地域とどのようなコミュニケーションをしているかを例としてご紹介します。

アマゾンジャパンの地域社会とのコミュニケーション例:

  • 地域の雇用創出への貢献

  • 地元企業とのパートナーシップ構築(物流センター内の飲食店など地域色も強化)

  • 物流センターでの地域住民向けイベント開催

アマゾンでは、その地域と共存していくという意思を表明し、その地域コミュニティにコミットしていくというコミュニケーションを行ったことが、アマゾンが信頼獲得につながった一つのコミュニケーション施策でした。

各地に拠点を持つBtoB企業は、その存在価値を地域社会に示し、正に共存共栄な関係性を築けるようなコミュニケーションを実践していただきたいです。

 

5. 「株主」とのビジョン共有

株主向けのコミュニケーションは、例えば上場会社であれば財務指標だけでなく、その前提になっているパーパスやビジョン、お客様の将来の課題に答えていく意識が重要です。そして企業側がどんな株主に支援してもらいたいのかということを想定しながらメッセージを発信していくことがポイントです。その上で、企業の存在意義や、課題、将来の可能性に対する期待感を正しく伝え、共感してもらえる施策を打ちましょう。

株主と積極的に共有したい発信内容例:

  • パーパスやビジョンに基づく長期戦略

  • 上記を実現するための人材育成や組織強化への取り組み

  • イノベーションへの投資計画

これらのコミュニケーションを積極的に行うことにより、短期的な業績変動に左右されない、長期的な支援を得やすくなります。たとえ業績が厳しい状況であっても、「今は少々厳しいフェーズかもしれないけれども、この会社であれば、ぶれない軸があるし、パーパスやビジョンも取ってつけたようなものではなさそうだし、人が育つような仕組みもあってイノベーションに投資をしようとしているし。信頼できそうだ」というような、株主から長期的な視点で応援してもらえる可能性が高まります。

 

6. まとめ

BtoB企業の広報活動には、実は想像以上に多くの可能性があります。パーパスを軸とした一貫性のあるメッセージを、各ステークホルダーに合わせたコミュニケーション戦略で発信し続けることが、企業の信頼獲得と未来を拓くことにつながるでしょう。

ステークホルダー別のパーパスコミュニケーションについて詳しく知りたい方は、お気軽にお問い合わせください。

 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。

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