PR視点でみたピッチコンテストの成功法則5+α
先日「Forbes JAPAN RISING STAR」が開催されました。
これは「日本の起業家ランキング」を毎年発表しているフォーブスジャパンが主催する、創業3年目以内のスタートアップ起業家や経営陣を応援するコミュニティプロジェクトです。
過去のランキングではメルカリやラクスルといった、今では私たちの生活に欠かせない存在になっているサービスを提供する企業も選出されており、ランキング入賞後に上場を成し遂げている起業家も多く、注目されている方も多いのではないでしょうか。
「Forbes JAPAN RISING STAR」ではその日本の起業家ランキングの登竜門とされている「RISING STAR AWARD」というピッチ大会が行われました。
この大会に登壇できるだけでも素晴らしいことなのですが、事前の厳しい審査を通った精鋭たちのなかで、いかにして自身のピッチが目の前の審査員に評価されるかにはある法則があります。今回受賞した企業もその法則をほぼクリアしていました。
ではその法則とはどんなものなのでしょうか。
ピッチとは
ピッチ(pitch)とは、投資家に対して自社商品やサービスを紹介するプレゼンテーションのことです。
プレゼンテーションは情報伝達手段の一種。つまりPRの一種でもあるのです。
ピッチは一般的なプレゼンテーションよりも短い時間で行われるため、相手に分かりやすく伝え、共感を呼び起こし、アクション(投資や契約)してもらうためのいくつかの要素が必要です。
誰もがうなずく社会課題を挙げ、美辞麗句やトレンドワードを駆使しても、ビジネスアイデアの押し売りだと思われたら相手に響きません(これはPRに置き換えても同様です)。
ピッチで勝ち抜くために必要な法則はプレゼン内容の中身に5つ。そしてピッチをする本人が備えているべき“あるもの”が必要なのです。
法則その1―「ビジョン・ミッション」
ビジョンやミッション、つまり、起業家が目指す姿や究極の使命をしっかりと示すことはピッチの第一条件ではないでしょうか。
意外とこれを取ってつけたかのようにさらっと軽く済ませてしまうケースが多いのです。自分たちの志を力強く伝えることで、最初の”つかみ”が素晴らしくなります。
さらにパーパス(存在意義)も強調していただきたいものです。残念ながら今回のピッチ大会では言及している企業はありませんでした。アメリカを代表するベンチャーキャピタルでAppleやGoogleなどに投資してきたセコイア・キャピタル社は、参考として提示しているピッチ用のテンプレートの最初のページに「パーパス」を置いています。つまり世界の投資家はパーパスが明確になっているかどうかを重要視しているのです。
PR視点でも、ピッチでこそ熱意のあるパーパス(存在意義)を伝えて欲しいところです。弊社がピッチ資料作成をサポートする際には必ずパーパスを冒頭にもってくることを勧めています。
法則その2―「何の課題を解決したいのか」
RISING STAR AWARDでは、ほぼ全ての登壇者が説明されていました。しかしながら”分かりやすく”伝えるという観点では改善の余地がありました。
分かりやすく伝えている企業は課題とソリューションが明瞭で、それを使う未来のお客様の喜ぶ姿が容易にイメージすることができます。どんなに革新的な仕組みや前代未聞なソリューションであったとしても、聞き手がイメージできない難解な説明では、世の中のためになることでもチャンスを逃しかねません。
またPR視点では、常に「なぜ今これなのか?」という説明に注力したいところです。
PRだけでなく投資家視点でも「今この会社に投資しなければ!」と思わせるきっかけにもなるでしょう。メディア目線でいえば「今この企業をとり上げなければ!」と思わせるための「なぜ今なのか」です。
ピッチに強弱をつけるとすれば、まず強調すべきは「なぜ今この商品/サービスなのか?」を明確にすることでしょう。
過去記事「パーパスブランディングとは?今、企業存続に必要な理由」
(なぜ今?なぜそれを?なぜあなたが?を実践したPR事例)
法則その3―「顧客体験」
「お客様がどういう体験をするのか」についてわかりやすい説明があると、聞き手はイメージが湧きます。そして、さらに顧客体験が良いことが理解できると共感が増します。
私がアマゾンに在籍していた時、「顧客体験」は新プロジェクトを立ち上げる際につくる社内用のプレスリリース(アマゾンの企画書のようなもの)に必ず入れる要素でした。
未来のお客様の体験として、「お客様が体験するとこんな風になって、お客様はこんな感想を持つであろう」という内容を明確に描くのです。そこまでイメージすることで、その企画を実行すべきか否かの決定に説得力が増すことになります。
法則その4―「マーケットサイズ」
今回のピッチ大会では意外にもマーケットサイズが不明瞭なピッチがありましたが、審査員は必ずマーケットサイズ、例えば「どこをターゲットにしているか」について質問します。
しかも投資する側にしてみれば、マーケットサイズが分からなければ、どのぐらいのopportunity(機会)があるのか掴めないので投資の判断に困りますよね。
対象にするマーケットサイズをしっかり伝えることで、聞き手は投資する価値があるか否かの判断ができるようになります。
自分たちがターゲットにしている市場の可能性を感じてもらえるような見せ方をすることが大事です。
これは、PR活動でも必要になります。日々情報に溢れたメディアにとって取材先の優先順位をつけるために、その会社が及ぼす影響度、つまりマーケットサイズもしくは特定のマーケットの特性を見ているのです。
法則その5―「ポジショニング」
ターゲットにしている市場の中で、自分たちはどこのポジションを狙っているのかをしっかり分かりやすく描けている会社はより有利です。
それに加え、「自分たちの強みは○○にある」と明確に伝えることができると選ばれるチャンスが広がります。
自分たちを強力にアピールする場であるピッチにおいて、強みを言わないなんてことは考えにくいかもしれませんが、意外にも強みを分かりやすく伝えることができていないケースが多いのです。
今回のピッチ大会でも「自社にしかない強みは〇〇です。」と断言している会社は少なかったように感じます。
その強みはどこからくるのか、例えばそれは特定のスキルをもった人なのか、人を育てる組織力なのか、開発した技術なのか、仕組みなのか、具体的な強みが明確に伝わるとより理解度と共感度が増します。
ピッチする人に備わっていなければならないもの
前述したピッチの技術的な法則に加え、プレゼンを行う人物の「熱意」は聞き手の気持ちを動かす重要な要素です。
PR視点では、プレゼンの一番の決め手は熱意、つまりパッションだと思っています。
実際、今回受賞した方の中にもパッションを強く感じた起業家がいました。
世界から注目されるアマゾンの創業者兼元CEOのジェフ・ベゾスでさえ、大切な発表会のプレゼンの前は1週間近くかけてプレゼン会場で毎日練習していました。初めはぎこちないレベルでしたが、毎日集中して練習し周囲からフィードバックを受けることで、日に日に上達し、当日は完璧なプレゼンテーションをすることができるようになったのです。
人の心を動かすプレゼンテーションの裏側には練習という努力が必要です。
自分一人の判断は当てにならないもの。多様な聴衆を前提にして、チームの仲間に聞いてもらい、客観的な評価をしっかり受け止めることは大切な準備です。そして練習は裏切りません。そこにパッションがあれば完璧です。
ピッチでやってはいけないこと
ここまでピッチの成功ポイントをお伝えしてきましたが、実はNGアクションというものもあります。
その一つが「早口」です。
ピッチという短い時間でのプレゼンのため、どうしても時間内に全て伝え切ろうと早口になってしまう心理はとても理解できます。しかしながら早口だった人のピッチ内容など全くというほど思い返しても印象に残らないものです。
あともう一つが「単調」なスピーチです。
単調な人でも、ここぞという時にパッションを示してくれると魅力的なのですが、内容が難しいものであればあるほど、固い表情で単調なプレゼンでは「本当に熱意をもってそのビジネスをやりたいのだろうか?」と疑われてしまっても仕方ありません。
素晴らしいビジネスアイデアを花開かせるためにも、起業家や経営者は、いかにパッションを伝えるかということにフォーカスすべきでしょう。
今回のイベントでは「大きく成長する起業家の条件」として名だたる経営者たちの言葉についても紹介されていました。
多くの経営者がその条件として「ビジョンやミッションを経営者が熱意をもって伝え続けることだ。」と言っていたことに納得です。
諸先輩方がスタートアップから努力を重ねてきた過程で、ビジョンやミッションを伝えていくことで社内や社会からの信用や共感を得て、それを実行し続けることでさらなる長期的な信用につながるのだという手応えを感じたからこその言葉ではないでしょうか。
AStoryとしても成功させるプレゼンテーションのご支援を、今後より一層携わっていきたいと思っています。
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