記者発表会でメディアを誘致するために重要なこと
先日、某オフィス用品メーカーの記者発表会をお手伝いしました。
創業から100年以上の歴史ある企業様の、エポックメイキングなPRサポートに関われたことは、AStoryとしても大変光栄でした。
今回は企業が記者発表会などのPRイベントを成功させるために必要な”勘所”について触れたいと思います。
,
クライアントが訴求したいこと=メディアが取材したいこと、ではないケース
今回の記者会見の趣旨は、クライアント企業様の本社機能を東京に集約した新オフィスのお披露目と、それを機に新たな試みを発表する、というものでした。
100年以上の歴史ある企業ですから、簡単にメディアが集まるだろう…と思われる方も多いかもしれません。
しかしながら、そうは問屋が卸さないのがメディアコミュニケーションの難しいところなのです。
なぜなら、その企業に広報部門はあるのですが、部署の役割としてはメディアからの問合せに対応することがメインになっていて、積極的なメディアアプローチといった、対外的なPR活動の蓄積があまりありませんでした。
そのような状態で「記者発表会でテレビメディアを呼びたい。」となっても、残念ながらメディアは日ごろコミュニケーションをしていない企業の記者発表会に、歴史だけでは取材しようとは思わないのが現実です。
記者会見の内容が、”メディアにとって”、ピンとくるものでない場合は尚更です。
メディア誘致のためにやったこと
案件のご相談をいただいたのは記者会見の約1年前。
このクライアント企業様が記者発表会で最も訴求したいことは、日本に未だない新たなコンセプトの認知拡大でした。
そして、「”テレビメディア”を誘致して欲しい」という強いご希望もありました。
とはいえ、日本では馴染みのないコンセプトのため、その分野の記者でない限り、メディアはご存知ない方がほとんどです。
クライアント企業様が訴求したいコンセプトは、今世間で声高に叫ばれている「働き方改革」に関係するものではあったものの、抽象的な概念を活用したケースであったこともあり、メディアに理解していただくための素地作りが必要でした。
そのため、先ず、「そのコンセプトが如何にすごいのか。」というファクト作りに着手します。
具体的には、その新しいコンセプトが採用されているファクトを調べました。
すると、マイクロソフトやグーグルなど、世界に名だたる会社や成長企業がそのコンセプトを一部海外で導入していることが判明します。
私はその情報を元に戦略を立てストーリーづくりを行い、テレビメディアへのピッチ活動(売り込み・簡潔なプレゼンの意)を行うのですが、そこにはファクト以前の問題が立ちはだかったのです。
テレビメディアの傾向
実は、記者発表会に誘致するための戦略をクライアント合意の下決定し、メディアへのピッチを始められたのは、既に記者会見予定日まで、既に1ヶ月を切った頃でした。
本来であれば、記者会見の誘致や会見内容のトピックスをいきなりメディアに売り込む以前に、そもそもこの企業のことをよく知らないメディアに深く理解していただく土台作り、シーディング活動を経るのですが、その猶予がありません。
インハウスPRで普段からメディアリレーションを行っていない企業が記者発表会をしたい場合、どうすればよいでしょうか?
AStoryでは、広報活動をしていない企業については少なくとも半年前から自分たちの会社やブランドを知ってもらうための土台を作る広報活動をご提案しています。
そのコミュニケーションの”下地”があった上で初めて、私たちは新たな商品やサービスの発表について、取材価値、報道価値があると訴えるテーブルにつけるのです。
継続的なアクションをしておらず、いきなり「イベントあるので来てください。」とメディアに訴えたところで、「○○社って何をしてるんですか?(何がすごいんですか?)」といわれてしまうのがオチです。
そもそも、その商品やサービスを売っている企業自体のインプットがない状態では、記者も取材すべきという判断がつかず、当然、プレスリリースが読まれることはないでしょう。特にテレビメディアは慎重です。
テレビメディアは余程社会的に大きな影響力を持ち信頼のある大企業の発表でない限り先陣を切って”初モノ”を発信したがらない傾向があります。初めて報道することで想定できないリスクの対応が必要になる可能性が否めないからです。
また、NHKでは最近、初モノ案件は先ずウェブで展開し、そのニュースのアクセス状況や読者の反響を見てからテレビで取り上げる傾向があります。
テレビメディアを誘致するテクニック
ここで、「え?」と思われた広報担当者の方もいるのではないでしょうか。
広報担当者が新人の頃、メディアに採用されるプレスリリースの書き方で、先ず重要な要素の1つに上げられるのが、「日本初、業界初」といった初モノですよね。
それは間違いではないのですが、殊更テレビメディアにおいてはその影響力の大きさから、初と謳う企業がどんな会社か、その初モノが世の中においてどのような影響を及ぼすのか、世の中の関心が高いのか、また他メディアで既に取り上げられている信用に値する企業か、といった様々な側面で慎重にならざるをえないケースが多いのです。なぜならテレビは多くの視聴者から様々なご意見をいただくためリスク要素になり得るものは極力避けたいからです。
今回はシーディングする期間がないなかではありましたが、奮闘の甲斐あり、某キー局の報道番組の誘致に成功し、無事放送をしていただくことができました。
実際に誘致するための戦略については、AStoryのセミナーでもお話しているので、ここではピッチをした際に多いテレビメディアの反応について1つご紹介します。
それは、
「ほかのテレビメディアは来ますか?」
という問いなのです。
つまり、メディア側の心理としては、その記者発表会に貴重なカメラ部隊を確保し、自分の番組でそのニュースを扱う価値があるか否かを、ほかのテレビメディアの動向から探りたいわけなのです。
それにどう答えるか?
相手の不安を払拭できる要素を伝え、安心していただくことがコツです。もちろん嘘はNGです。今回の場合は、各局からの正式なお返事は通常どおり皆さん直前でしたが、それまでは好意的な反応、ぎりぎりまで判断つかないといった様々な反応でしたので、「ご関心をいただいている。」「複数検討されている。」などと回答しました。
イベントPRで重要なこと
ピッチする時間を得ること自体が難しいテレビメディアにおいては、少ない時間(期間)で行動(取材)喚起につなげることは非常に困難となります。だからこそ、シーディングは大切です。
さらに、世の中でまだ知られていないことを、如何に世間の皆様に”自分事”にしてもらうかも重要です。
「何か」を「メディア」を通して発表したい時、”誰”がその商品またはサービスに共感してくれるのか、”どんな”見せ方や話し方をすれば共感してくれるのか、ということを深掘りしていくのです。
例えば、
・新規性 ― それで世の中をどれだけ変えることができるのか、を話せるか?
・季節性・時事性 ― 今の季節だからニーズがあるもの。世の中が今何に関心があって、貴社の商品またはサービスはそこに関連があるか?
・独自性 ― 「自分たちがこういう技術を蓄積してきたからこそ、このような商品またはサービスを生み出せた。」という、その企業だからこそのバックグラウンドがあるか?
さらに、メディアが記事を書く「目的」に立ってみれば、わかりやすいでしょう。
メディアがなぜ記事を書くのか?それは「今」大切なことを報じたいから。
イベントPRでは、「なぜそれが今なのか?」という記者の暗黙の問いにきちんと答えられることが肝要です。
多くの記者は前述したテーマに沿ってそれに合うトピックスをインパクトの大きい順にプライオリティを決め記事にします。
故に、新しい商品やサービスを発表する際は、”自社のタイミング”や”自社にとって大きなこと”という視点ではなく、世の中の関心事にきちんと応えられるタイミングと切り口でコンテンツを作ることが肝心です。
広報活動は1回キリでは成り立ちません。
“継続”して”積み重ね”た上で信頼を勝ちとって…の繰り返しなのです。貴社のストーリーをメディアに伝えること、また、貴社とメディアとのストーリーを紡いでいくことで、PRの効果は最大化します。
せっかくイベントに来てくれたメディアの信頼を繋ぎ留め、さらに発展させていくためにも、日々のコミュニケーションを地道に積み重ねていきましょう。
AStoryでは企業経営者やPRパーソン向けにセミナーを随時開催しています。