経営陣のパーパス発信が社員エンゲージメント向上のカギ

 

世界最大の広報団体である米国広報協会(The Public Relations Society of America)が、「企業トップの社内コミュニケーションが企業文化に貢献する」というミズーリ大学による調査結果を報告(*1)しています。フルタイムの社会人1,512人を対象にしたこの調査は、経営者が積極的なコミュニケーションをしている会社の従業員はエンゲージメントが高く、仕事に対する幸福感や成果の向上に相関関係があるという内容でした。

*1出典:Strategies & Tactics | PRSA

 
 

経営者は従業員のコミュニケーションにコミットすべき?

このミズーリ大学の調査結果は非常に納得するものです。

過去の記事「エンゲージメントを高めて強い組織になるための6つの施策」でもお伝えしているように、会社の「パーパス(企業の存在意義)」や「ビジョン(目指す姿)」、そして「行動指針」が社員に浸透しているか否かは業績に大きな影響を与えます。この記事でご紹介しているように、日本企業における従業員のエンゲージメント率は世界全体で最低水準となっているなか、現在の日本は人手不足が深刻化している状況です。

日本においても、日経BPコンサルティングや企業広報戦略研究所が、優秀な社員の獲得や維持への取り組みや、人的資本経営によって企業の継続的な成長を目指すにあたり、パーパスを浸透させるためのコミュニケーションの重要性や、社員のエンゲージメントの高低にはパーパスや企業理念の浸透度と相関性があることを指摘しています。

社員エンゲージメント向上に力を発揮する社内サーベイの活用』(日経BPコンサルティング)

第3回インターナルブランディング®調査』(企業広報戦略研究所)

今、企業のトップがすべきことは、従業員のコミュニケーションにもっとコミットすることなのです。

 

日本でのユニークな取り組み事例

  1. 株式会社ZOZO

    ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」などを展開するファッションテック企業のZOZOでは、社長自らパーソナリティとなって社員限定のラジオ番組を放送しています。社内コミュニケーションの一環で始まったというこの取り組みには、社長自身の声、言葉で社員に向けて生配信することによって、双方向性が強くなり、社員がその場に参加している感覚を覚える効果を与えることができます。
    多忙であるはずの企業トップが毎週時間を作って定期的に社員に向けて生配信している姿勢そのものが、社員とのコミュニケーションを大切にしたいという温かい気持ちが伝わります。

    このラジオのきっかけには、「社員の人数が増えるにつれて、普段なかなか交流のない社員もいると思いますが、このラジオを通し、今よりもっと会社や社員同士のことを知り、好きになってほしいという想い」(*2)があったとあります。スタートアップなど、社内文化が十分に育っていないなか、企業規模が急成長した企業には学べるアプローチではないでしょうか?

    もちろん、社内報という紙やウェブでのテキスト情報による発信でも、社内コミュニケーションの効果はありますが、これは進化型の事例といえるでしょう。

    *2引用:『当社代表がメインパーソナリティを務める社内限定ラジオ「DJさわだのナナメウエラジオ!!」放送開始

  2. 株式会社 門崎(かんざき)

    「肉の解体ショー」や「オンライン肉会」など地元の生産物の価値を上げるユニークな取り組みで知られる精肉・加工品販売・飲食店を展開する岩手県発ベンチャーの門崎もユニークな取り組みを行っています。四半期に1回開催される業績発表会を当日YouTubeでライブ配信しているのです。
    多くの大手企業との協業もしている門崎ですが、業績発表という生々しい数字も包み隠さずYouTubeで一般公開してしまうという姿勢に潔さを感じさせ、社内だけでなく社外にも透明性を担保したコミュニケーションといえるでしょう。

    この業績発表会ではYouTubeでライブ配信されることについ注目してしまいますが、毎回、会の始めに「ビジョン、ミッション、パーパス」を提示して社員との意識合わせをしている点がポイントです。その会社の”軸”から逆算して、当該期間を振り返っているのです。
    上場企業ではなく、義務もないのにも関わらず、社内で「パーパスから逆算した仕事ができたか」を、この場を通じて確認できていること。自分たちのパートナー企業や潜在顧客(株式会社門崎および展開店舗に興味を持ってくれている方々や、自分たちの在り方に賛同してくれている方々)に向けてライブ配信をすることは、社内の人以外にも共感者を生むことになるでしょう。

    株式会社門崎の業績発表会では、トップも含めた経営陣の話や各チームの話など、「皆で作っている感」がうかがえます。何より、トップが”自分がやるべきだと思ってやっている”ので非常に熱があるのです。

    そういった点でも社外の人たちから「いいな」と思ってもらえる、共感を生む機会になっている斬新な事例です。

    門崎の専門店「格之進」の公式YouTubeチャンネル ※「業績発表会」は当日のみの公開

 

経営会議の内容は広報に共有すべし

広報は会社の情報を適切に管理・発信するコミュニケーションのエキスパートです。それにもかかわらず、「経営会議で何を話したかを教えてもらえない」という広報担当者は多いようです。その理由は「センシティブな内容だから」というもの。

しかしながらそれでは”タイムリー”に「経営上何が課題なのか」「何が優先順位になっているのか」をキャッチできないため確度の高い広報戦略が打てません。当然ながら、組織の各部署における事業活動にも効果的な広報戦略や活動がタイムリーに設計しにくいという弊害も起こり得ます。なぜなら広報は体でいう血液の役割を担うからです。メディアからも優秀な広報のイメージの一つに「経営者との信頼関係がありホットラインがあること」と言われます。毎回問い合わせに伝書鳩のような回答しか得られないと広報への信用問題にも関わるでしょう。ある程度広報の中で回答できる範囲について判断できることが大切です。

個別の人事評価などは除き、少なくとも経営に関することは情報管理がしっかりできていれば社員に公開しても良いのではないでしょうか?少なくとも広報は知っておくべきだと思います。

「社員は戦力」だと思っているのであれば、トップはもっと能動的に情報共有すべきです。

 

社員の約半数は会社のビジョンを知らない事実

こちらの調査結果(https://www.willcanvas.jtbcom.co.jp/column/2328/)では、部長以下の社員の半数近くが自分の所属する会社のビジョンについて「知らない」「あるかどうか知らない」といった認識がない状態でした(※「わからない・答えたくない」も含む)。

企業によっては、社員のなかに自分の会社のビジョンも知らないような人が一定層いるという事実は、経営者にとってショックなことではないでしょうか?

社員にとってみれば、「一体何をやれば貢献できて、何をやったら評価されるか」といったことを分からずに働いている状態です。

社員のモチベーションを上げていくには、この状態を解消しなければなりません。社内でビジョン、ミッション、パーパスを浸透させることをトップがコミットして、且つ、それに紐づいた経営戦略があって、更にその経営戦略を、透明性をもって社内で共有することです。

具体的に会社をどう成長させるか情報共有された方が、社員のモチベーションを上げアクションにつながります。またパーパスが浸透していれば「会社が困っているなら自分ができることは何か?」といった視点で動く社員が出てくる可能性もあるでしょう。

 

おわりに

企業の業績には社員のエンゲージメントが深く関わり、そのエンゲージメントを上げるにはパーパスの浸透と、トップが広報を活用した透明性のある社内コミュニケーションがカギになることがお分かりいただけたでしょうか。

また、AStoryでは社内コミュニケーションやパーパスの発信・浸透に関するサポートも行っておりますので、ご興味のある方はご連絡ください。

 

AStoryではアマゾンジャパンの黎明期からトヨタやGoogleを抜いてトップブランドとなった実績(「総合ランキングは、「Amazon.co.jp」が初の総合首位を獲得」)をもとに、ベンチャー、スタートアップ企業の新規上場におけるPR戦略立案やPR担当者育成のサポート、パーパスブランディングの構築支援をしています。

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